割れ鍋に綴じ蓋

作品の感想などを気ままに。BLが苦手な方はご遠慮ください。

「親愛なるジーンへ 1」感想

連日曇り空ですね。ところで今、7月の半ばですよね?涼しい…どころかむしろ寒い!昔からすぐお腹を壊す体質なので気温が上がったり下がったりされると困ります…。早く夏らしい夏になって~。でも大多数の人には今のままの方が喜ばれそう。 

 

今回はこちら。吾妻香夜先生の最新作「親愛なるジーンへ 1」です。

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NYに住む伯父・トレヴァーの書斎で一冊の手記を見つけたジーン。そこには、自分ではない“ジーン"について綴られていた。
――1973年。弁護士のトレヴァーは重要な書類を紛失する。雪が降りしきる中、それを届けてくれたのは清掃員していたジーンだった。ボイラー室で暮らしているという、見るからにみすぼらしい彼を放っておけず、トレヴァーはお礼も兼ねてハウスキーパーをしないかと持ちかける。まるで中世からやってきたような世慣れなさに反し、教養を感じさせる美しい元アーミッシュの青年ジーンとの同居生活は、ゲイであるトレヴァーに羨望と穏やかな幸せをもたらすが――。

「ラムスプリンガの情景」へとつながる、もう一つの愛の物語。

(「親愛なるジーンへ 1」あらすじより) 

待ってましたー!!この作品はアーミッシュの青年と元ダンサー志望の青年の出会いを描いた「ラムスプリンガの情景」のスピンオフとなっております。「ラムスプリンガの情景」がすごく良かったのでそのスピンオフが出ると聞いてずーっと待ってたんですよー!今作も本当に良かった…!もしかしたらラムスプリンガより好きかも。

 

今作は基本的に元アーミッシュの青年・ジーンとNYで働く弁護士・トレヴァーの二人の関係性に焦点を当てて描かれています。最初の方はジーン可愛いなあーって思いながら読んでたんですが、途中からトレヴァーに感情移入しちゃって最後の方は泣きながら読んでました…。

まずジーについて。シャワーや電化製品の使い方が分からない、床屋に行ったことがないなど世慣れぬところがとっても可愛かった。前半は泣いていたり照れていたりしたシーンが多かったので余計に。その一方でトレヴァーとの出会いから既に深い知性を覗かせていました。そのギャップが魅力的でしたね。終盤ではしっかりとしてきてトレヴァーを導くような場面もありました。

そしてトレヴァー。生真面目で堅物だが根は善人という人物として最初から描かれていましたが、物語が進むにつれて彼のバックボーンが明らかに。ジーンに対して様々なものを教え提供し導くという保護者ポジションとしてだけではなく、彼自身もいろいろな事情を抱え苦悩し続ける人という描写がとても良かったです。カレンに言った言葉や酔った時にふと漏れた言葉から、彼が背負っているものが想像以上に重いことが窺えて、そのあたりからトレヴァーがますます愛おしくなりました。

 

メイン二人以外ではトレヴァーの元婚約者・カレンがいい味を出していました。船上でジーンに向けたセリフがすごく良くて…。シリアスなシーンや心温まるシーン、コミカルなシーンのバランスもとても良かったですね~。床屋に動転するジーンやカレンの小説を読んで目を丸くしているジーンがお気に入りです。それからp58のジーンの失敗とトレヴァーの余計な一言の天丼も好き(笑)テンポが良くて読んでいて楽しいです。あと一度喜ばれると毎日植物を買ってくるトレヴァー(笑)いるいるこういう人!

前作「ラムスプリンガの情景」のテオやオズもちょこちょこ出てきてましたね!今作を読んだ後にラムスプリンガを読み返してみると、村を出る時のジーンの髪の毛は確かにめちゃくちゃ短かったです(笑)

一番好きなシーンは二人の想いが通じ合った後のトレヴァーの家族の回想ですね。涙腺にきてしまいました。全体を通して読み終わった後の満足感がすごかったです。

 

そして今作は「ラムスプリンガの情景」のスピンオフですので、そちらとの比較なんかも。これは「ラムスプリンガの情景」を読んだ時の感想↓

 

「ラムスプリンガの情景」では純粋で世慣れぬアーミッシュでありながら人の感情の機微に鋭いテオと世俗に慣れ酸いも甘いも噛み分けたように見えながらも父親との約束のため夢への未練を断ち切れていなかったオズという組み合わせでしたが、「親愛なるジーンへ」では元アーミッシュで世間に不慣れではあるものの聡い一面を覗かせるジーンと堅物だが根っからの善人で自分がゲイであることに苦悩しているトレヴァーという組み合わせ。こうして書き並べてみるとこの二組は似た二人の組み合わせのように思えます。世俗に疎いアーミッシュの青年を導くという立場にあった人間が彼らの聡明さによって救われるという構図が似ているのかもしれません。

 

組み合わせだけ見ると似ているように感じられますが、それでもやっぱりこの二作は異なる雰囲気を持っています。「ラムスプリンガの情景」の方はアーミッシュの生活圏で過ごしていた期間もあり、テオたちの文化は世間一般とは隔絶したものだがとても良いものとしてオズの目に、そして読者の目にも映っていました。一方「親愛なるジーンへ」の舞台は終始NY。だからこそジーンは元アーミッシュ、すなわち世間一般の人とは違うのだという印象が強く映る。この二作の違いは、こういうところが要因なのかなと。あくまで個人的な解釈ですが、「ラムスプリンガの情景」の方はテオによるオズの救済、「親愛なるジーンへ」の方はNormal Peopleになれない互いを支えあうジーンとトレヴァー、という風に私としては受け取りました。

この二作はどちらも恋愛だけではなく家族との繋がりも重視されているところも個人的にはお気に入りです。家族の絆とかに弱いんですよぉ…。

 

作中でジーンとトレヴァーが見に行った映画の感想を言い合うシーンがありましたが、ジーンが言っていることは正にその通りで娯楽を楽しむには教養が必要なんですよね。私も世界史は疎くて70年代から80年代のアメリカにも詳しいわけではなかったので、ちょこちょこ調べながら読みました。最近は知らないことを積極的に調べるようにしているのですが、ジーンによって改めてそれを思い出させてもらった感じです。思いがけぬ教訓を得ることができました(笑)人間日々勉強ですね。

吾妻先生の作品は「桜田先輩改造計画」を一番最初に読んだのですが、その後に「ラムスプリンガの情景」を読んでギャップがすごい!と思いそこからすっかりファンになってしまいました。心温まるシーンから切なくなるシーン、ギャグやエロまでどれも素敵で作画もストーリーも好きです♡(突然の告白)「親愛なるジーンへ」は次巻で完結だそうですが、ジーンは1992年ではどうしているのか?二人はあの後一緒に暮らしていたわけではない?など気になることがたくさん!なので続きを楽しみに待っております!