「灰の月(上)(下)」感想
珍しくハイペースで更新しています(笑)この調子でガンガン読んでいきますよー。
このタイミングで長期シリーズに挑戦するのもいいかも!
今回は「灰の月(上)(下)」です。
こちらは「月に笑う」のスピンオフ。
「灰の月」単品でも十分楽しめると思いますが、「月に笑う」も読んだ方が二人の関係性や人となりを知ることができ、特に惣一さんの描写に対する説得力が違うのではないかと思います。
(「月に笑う」の感想はこちら↓)
(「灰の月(上)」あらすじより)
Chapter1
Chapter2
会合終わりに泊まった初めてのホテルで性欲処理しようと思ったが、いつものディルドを入れ忘れていたことに気づく惣一。
何とかしようとしてくれる嘉藤に対しヒステリックになった惣一は嘉藤自身を寄越せと要求する。
すると拒否されるという惣一の予想を裏切り、嘉藤はそれを承諾する。
嘉藤は嘉藤なりに何とかしてあげようとしているのにことごとくダメですね。プライドの高い惣一さんの機嫌を取るのは難しい。
でもハンガーはないよ。いろいろ読んできたけどさすがにハンガー使ってる人見たことないよ。
まあシャワーヘッドも大概入らないと思いますけどね。
嘉藤とのセックスに溺れる二日間。
東京のマンションに着いた惣一はベッドの上で嘉藤を誘うが、拒否されてしまう。
その後自分に宛がわれた男に抱かれる姿を嘉藤に見られる惣一。快感と嫌悪感が入り混じった行為の後、自分の本性を思い知らされる。
心と体がバラバラな行為は虚しいだけ。
まあ嘉藤はノンケですから迫られても無理なのは当然なんですが。
理不尽な振舞いをするし人間的に未熟なところがある惣一さんですがここはちょっとかわいそうかな。
Chapter3
ここからは嘉藤視点。
嘉藤は自分のボス・本橋惣一を尊敬しつつも、その性癖や自分に向けられる感情に頭を悩ませていた。
浜辺で嘉藤は自分の過去を回想する。
帰宅した嘉藤を求める惣一に男を宛がい、惣一は嘉藤の名前を呼びながら男に抱かれる。
嘉藤はかなり壮絶な人生送ってますよね。家政婦の美子さんはいい人だった。
惣一さん、かなり情緒不安定ですね…。でも目隠しされて嘉藤に抱かれてると思って別の男に抱かれているところは可愛い。
中のゴム取ってっておねだりするところも可愛い。
でもその後の「僕を抱いてたのはお前だろ」ってところは…もの悲しい。
Chapter4
惣一と共に本橋組組長の本宅へ行った嘉藤は組長から惣一の見合い話を聞く。
その帰り、滞在したホテルで惣一は花火を見ながら自分が結婚してもいいのかと聞くが、嘉藤は自らの意思を曖昧にして答える。
そしてまた惣一は嘉藤の見ている前で男に抱かれる。
惣一さんも嘉藤の事全く諦めてませんけど、嘉藤は嘉藤で頑固ですよね。惣一さんをトップに立たせて自分はそれを支えるという未来しか見ていない。
そして花火を見る浴衣姿の惣一さん素敵。
『卑猥なものを見せてやろうか?』って言って片膝を立てて何も履いてないのを見せつけるのやらしいなあ。色気のある中性的な男の人好き。
他の男に抱かれているところを見られたい訳ではないのに、自分の存在を無いもののように扱われるのは嫌だ…。難しい人です、惣一さん。
Chapter5
見合い相手の彩美と共に三回目の食事をする惣一。
表面上は良好な関係を築いているものの、彩美も惣一も互いを嫌いあっている。
惣一が彩美をホテルに誘ったことに嘉藤は驚きつつも部屋に同行すると、自分も行為に混ざるよう命令される。
惣一さんそもそも結婚する気あったんでしょうか。ちょっとはあったのかな。
でもレストランで彩美が嘉藤を誘ったことが気に入らなくて、その場で衝動的に自分を抱かせようと思ったんじゃないかと。
彩美と結婚しても良いビジョンは何も見えなかったと思うけどね…。
女性に向かって「これは俺の男だ」って宣言するシチュエーションすごい好きなんです。全然男らしくないしどっちかっていうと情けないなあって感じだけどなんか好き。
彩美を追い出した後。
ボスの婚約者に手を出したとして惣一は嘉藤に陰茎を切り落とすよう命じる。
嘉藤は命令を受け入れ手をかけようとするが、惣一は寸前でそれを止め、泣きながら嘉藤自身を舐めるのだった。
その晩のことがきっかけで惣一の見合い話は破談。嘉藤は組長の命に従い、惣一から離れて大阪へ向かうことになる。
ここまで惣一さんのヒステリックなところや情緒不安定なところを見てきて、惣一さん大変な人だなと思ってきましたけど、嘉藤も大概やばいです。
なかなかぶっ飛んでる。
読めば思考回路を理解することはできるけど、切る決意できるところは常人じゃない。
惣一さんは惣一さんで嘉藤にすごく執着してるけど、嘉藤は嘉藤で理想のボスとしての惣一さんに執着してるのよね。
お互いに相手を大事にしてるのに、求めるものが同じではないすれ違い。
二人が納得できる状態には…なれるのかな。この時点ではそんな未来は見えない…。
Chapter6
ここからが下巻の内容です。
二年ぶりに大阪から戻ってきた嘉藤は組長から本橋組の跡を継ぐことを打診される。
嘉藤は組長の手術の前に顔を見ておきたいと吉野と共に病院へ向かったところ、なんと組長は殺害されていた。
再会した惣一は幹部たちの前で堂々とした態度で弔い合戦の指揮を執り、その姿に嘉藤は尊敬する男が戻ってきたと興奮を覚える。
一方で以前のような醜聞は鳴りを潜めたとはいえ、その性癖は変わっていなかった。
嘉藤は落胆を覚えつつも、表では理想の組長として振舞ってくれるのならと目を瞑ることにする。
つくづく嘉藤は惣一さんを組のトップにしてそれを支えることのみを考えているんだなと思いますね。
それにしても惣一さんかっこいいじゃん!
でも性癖は相変わらず…。嘉藤はハチから報告を受けていたからいろいろ聞いてたんだろうけど、惣一さんは二年ぶりに嘉藤に会えたんだもんね。嬉しかったのかな。
やっぱり引き離されたことは相当堪えたのかも。
Chapter7
嘉藤はかつての馴染みの女・亜子が敵対する東禅会系列の組である安孫子会の下っ端・金子と付き合っていることなどから安孫子会を怪しみ、金子を捕らえた。
金子を介して安孫子会にクスリを売っている近藤に行き着き、嘉藤は組長をやったヒットマンが肥島という男だと知る。
組長の葬式後の宴席における幹部の糸川の言動を怪しみ始めた加藤は、惣一に内部に裏切り者がいるかもしれないと進言する。
ヤクザの世界やっぱり怖い~。
嘉藤もそうだったんだろうけど読んでるこっちも何も信じられなくなってくるよ!
いろいろと引っかかるところはあったんだろうけど、テーブルの下の糸川の手を見なかったら気づくのが遅かったかも?早めに気づけて良かった。
肥島を捕らえるに際し父の仇を討たせてほしいという惣一も同行し、部下のハチと三人で情報を吐かせようとする。
ハチはなかなか口を割らない肥島に手をあげようとしたが、肥島はハチの拳銃を奪い発砲、嘉藤をかばった惣一は負傷してしまう。
さらなる襲撃の可能性を考えた嘉藤は惣一を連れて昔馴染みの女の店に身を寄せる。
ふとした弾みで惣一の上半身が見えた時、嘉藤はあり得ないものを目にする。
惣一の胸には女のような膨らみができていたのである。
立場なんて関係なく嘉藤を守りたくて。
そして再会してから惣一さんが嘉藤の前で着替えをしなくなった理由もここで判明します。まさかそんなことになっていたとは。
そこまでして嘉藤に愛されたかったんだね。そうしても愛される保証はないのに…。
Chapter8
糸川が裏切り者であると確信した嘉藤は糸川を始末する。
田舎の旅館に身を隠させた惣一のもとへ嘉藤が向かうと、惣一から組を継ぐ気はないと告げられる。
嘉藤が考え直してほしいと言うと、その代わりに最後に抱いてほしいと哀願する。
嘉藤は惣一の希望通りに抱くが、その最中惣一は涙を流していた。
東京に戻った惣一は組長にふさわしい姿で振る舞う。もう嘉藤は惣一が自分に触れることを止めなくなっていた。
ここの旅館での場面、一つの山場ですねー。
惣一さんは情緒不安定っぷりに拍車がかかっていますが、その気持ちは分かるんです…。
でも惣一さんが懇願する姿を見て落胆する嘉藤の気持ちも分かるんですよ…。
嘉藤は「そんなに男に抱かれたいのなら」とか言いすぎだよ~。惣一さんの気持ち見て見ぬふりしてるくせに…。気づいてるくせにー!
セックス中の言葉もグサグサ惣一さんに突き刺さってる。
それでも惣一さんの涙を見て、嘉藤の中に同情や性的な衝動みたいなものが生まれつつある。
惣一さんの思いが嘉藤を変えつつある…のか!?みたいな感じで…。
東京に戻ってから組長として立派にふるまい、皆に認められつつある一方で
「頑張ったご褒美に、キスして」
(「灰の月(下)」p.153より)
…めっちゃ可愛いーーー!!!
Chapter9
蘭央会執行部の組の1つ・麻生会の組長の娘の結婚式が敵対する東禅会のシマの中で行われることを訝しみつつも、嘉藤は惣一と大阪に出向く。
その式場で出会った蘭央会の下部組織に所属する男・井上の言葉を聞き、この式そのものが罠だと勘付いた嘉藤は惣一と共に式場から脱出する。
井上、食えない奴っぽいですがやるね~。
会場からの脱出がハラハラ感あって読んでてすごくワクワクしました!
カンナ肝据わってる~!女装した惣一さん見たかった~!
ラブホに入って行為に耽る二人。嘉藤は惣一さんの雌犬としての一面を見るたびに苛立ってはいるんだけど、やっぱり拒絶しなくなってるんですよね。
お風呂でいちゃつくの可愛い♡
『もし死んだら~』のくだりで嘉藤への思いが消えるどころか強くなっているのがわかります。
嘉藤も気持ちに応えることを決意してますけど、やっぱりうんざりしたりするんでしょうね。その決意は愛情ゆえじゃないし…。
intermission1
本橋組の下っ端・沖の視点で進む幕間。
こういう束の間の蜜月ほんと好き。女装をして嘉藤を困らせている惣一さんほんと可愛い。
でも…この後の展開を思うと…。ここまではいつもサクサク読めるのに…。
Chapter10
紅蓮会の葬式と三派会の一周忌が重なり、惣一と嘉藤は別々に顔を出さなくてはならなくなった。
嘉藤は不穏な雰囲気を感じながらも、警護の数を増やして惣一を静岡へ送り出す。
すると嘉藤のもとに葬祭会場で爆発が起き、惣一が行方不明になったと連絡が入る。
ああああ!束の間の蜜月だと思ったらやっぱり!
なんかデジャヴだなと思ったら同じく木原先生の作品の『FRAGILE』を読んだ時にも同じようなことを感じました。
intermission2
拉致されてしまった直後の惣一視点の幕間。
ううっ…辛い(ノД`)・゜・
またも凌辱されてしまう惣一さん。でも冒頭もそうでしたけど、惣一さんの性癖が一般的な男性と同じだったらもっと早く殺されてただろうなってことを考えると…因果なものです。
Chapter11
葬祭会場での爆発に巻き込まれた惣一が姿を消してから半年。嘉藤は惣一がまだ生きていると信じ、捜索を続けている。
本橋組の新入り・鈴木は片っ端から女に手を出すクズで、それを理由に裏モノのAV男優として使っていた。
ある時、鈴木は幹部の山平の女に手を出し処分が下されるはずだったが、惣一の情報を持っていると言い、嘉藤と交渉をしようとする。
鈴木から見せられた動画には惣一に似ている人物が映っていた。
鈴木を利用して嘉藤は大阪へ向かう。そして惣一を個人的に囲っていた男・井内のもとへ辿り着くと、そこには惣一がいた。以前とは変わり果てた姿で…。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(辛)
山平が裏モノAVを扱ってるって情報出た時から少し嫌な予感がしていましたが…。ここまでしなくても…!
それに惣一さんはポジション的に使わないものですけど、そこ切られちゃうのは…(>_<)
一言しかない惣一さんのセリフを読むのが本当に辛かった。でもこの約一年間、惣一さんはずっと嘉藤の事だけを考えていたんでしょうね。健気。
屋形船で山平が言っていたことが惣一さんと嘉藤の関係を端的に表していると思います。それぞれが互いに執着してたのになあ。
惣一を取り戻してから約一年。嘉藤は惣一と二人で北海道の外れで暮らしていた。
惣一は監禁されていた間に打たれた薬の後遺症で記憶が混濁し、常にぼんやりとするようになってしまった。
嘉藤は惣一が元のように戻ってくれることを望んでいるがその兆しは一向に見えない。
惣一に東京に戻りたいかと嘉藤は問うが、惣一は今の生活がいいと幸せそうに笑う。
嘉藤はこの地で年老いていくこと、そしてその傍らには惣一がいることを想像するのだった。
これまでのものとは一変した生活。
今までのような頭脳や人格より嘉藤といられる生活の方が惣一さんにとっては価値のあるものなのでしょう。
二人の行く末を表す色はやはり”灰”なのでしょうが、ここまで来たのは惣一さんの勝利と言わざるを得ない。
最終章
本編のその後の二人を描いた書き下ろし。
この状態の惣一さんを見ているとちょっといたたまれなくなる時もあります。
子供なんて産まれるわけないのに。
こんな状態になっても嘉藤に愛されるに足る人間になることを望んでるんだなって思うとちょっと悲しくなります。
でも最終章の惣一さんはめっちゃ可愛い!
- 帰ってきた嘉藤の頬に顔を寄せて「おかえり」
- 昼間から夜になるまでずっと猫の親子を眺めてる
- 猫の親子が寒くないように自分のセーターをあげる
そして一番の泣きポイントはここでしょう。
嘉藤が惣一さんに自分の名前を憶えているか?と尋ねるシーン。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(感涙)
やっと惣一さんの気持ちが実ったって感じがします。嘉藤が自分の理想のボスという側面を持たない惣一さんを受け入れたという感じ。
その側面を持たなくとも嘉藤にとって惣一さんはそれほど大事な人だということを認めたんだな。
下巻のあらすじ見ると
その後の幸せな書き下ろしショートを収録
”幸せ”って何だろう…(哲学)
と最初に読んだときは思いましたが、何度も読み返すたびに惣一さんにとってはこれでよかったのかなと思い始めました。
これでというかこれが欲しかったのかな。嘉藤の傍に居られて、嘉藤の帰りを待って過ごして、嘉藤を愛することを受け入れてもらえる生活が。嘉藤に愛されることが。
それを手に入れるための代償はとても大きいものだったけれど…。
組から離れたところで二人静かに過ごしてくれるといいな。きっと過ごせているよね。二人の幸せを祈らずにはいられません。
最後まで読み終わってから惣一さん視点が読んでみたいなあと思いましたね。
嘉藤にいろんな言葉を投げかけられたり抱かれている間、何を思っていたんだろう。
でも終盤は読みたくないかな…。
すごい欲望にまみれた頭の悪い話をすると、惣一さんめっちゃ私のツボなんですよね…。
上辺じゃない人付き合いがお世辞にも上手とは言えないし、女々しいし、ヒステリックなところあるしと現実にいたら近づきたくない人種ではあるんですが(笑)一途に嘉藤を思うところが本当に可愛い。
可愛いなあって目で見ながら読んでたから尚の事終盤辛かったです…。
最近本当に涙腺弱くてすぐ感動して泣いてるんですけど、久しぶりに辛さで泣きました。
この作品はもともと同人誌で書かれていたそうで。
商業誌で出してくださってありがとうございます。おかげでこの作品と出会えました。
万人受けはしないかもしれませんが、刺さる人には本当に刺さる作品だと思います。
この作品のことを私は生涯忘れないと思うし、これからも何回も繰り返し読みたいです。
人を選ぶ描写は多々ありますし、典型的なハッピーエンドとは言えないですが、年上部下×年下上司、主従関係、執着、ヤクザものなどが刺さりそうな人はぜひ読んでみてください。見事にハマった人がいたら私と握手!(笑)
かなりの乱文になってしまいましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。